◇「戦後混乱」通説裏付け
【山口】「汚れっちまった悲しみに」で有名な詩人・中原中也(ちゅうや)(1907〜37)、中原中也記念館提供=の読み仮名が「なかや」と誤って表記された詩集などが、中也の出身地・山口市の中原中也記念館の書庫などで見つかった。「終戦後の一時期、読み方が混乱した」という通説が改めて裏付けられた。【中尾祐児】
巻末の著者・訳者名が誤記されていたのは創元社刊の「山羊(やぎ)の歌・在りし日の歌」(51年初版)と、書肆(しょし)ユリイカ刊の「中原中也譯(やく) ランボオ詩集」(49年発行)。同館の那須香学芸員は「今回、中也ファンから問い合わせを受け、館の蔵書の現物を見て初めて確認した。誤記の実態を調べた研究は、聞いたことがない」といい、創元社(大阪市)も「当時の経緯は分からない」。誤記の原因や出版総冊数は不明だ。
ただ、那須学芸員によると、同じ時期の別の出版社の中也詩集の年譜に、名前の由来を「(軍医の)父の上官『中村六也』氏からとる」と解説しており、「姓の『中』と名の『也』で『なかや』と読まれ、出版業界に広まった可能性もある」と推測する。
本人の生前の手紙などから本名は「ちゅうや」で間違いなく、中也の友人だった評論家の大岡昇平(1909〜88)らが50年代後半、著書などで「『なかや』はやめてほしい」と繰り返し主張。出版物も本名の「ちゅうや」に統一されていったとみられる。
館を訪れる高齢者の中には、「なかや」と呼ぶ人もいるという。中也の作品に詳しい詩人の佐々木幹郎(みきろう)さんは「中也に限らず、終戦後の混乱期の書籍にルビの間違いは多い。当時、初めて中也の詩に感動した読者には『なかや』の印象が残るのは当然。今は本名の『ちゅうや』をイメージし、詩の世界を楽しんでほしい」と話した。
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